櫻かざして掛時計止まり居り
春雨や帰郷といひて荷一つを
夕ざれば水より低き花菜ぞひ
なつかしや苗代水に畦とぎれ
花疲泣く子の電車また動く
限りなく落花来る日の杉菜かな
衰へし落花ぞ人を行かしむる
掬はれし蝌蚪は落花と網に乗り
かけりたる 蝶おほらかに返し来る
つつじ咲くさらでも子等は走り居り
子等のぼる土手芳草ものぼるなり
行春の旅の行李の綱固く
ぬばたまの闇に灯消して春の風邪
行きはわが足袋の真白く下萌ゆる
芝の火のおもひとどまるところかな
蟻出でし穴は日照りて濃紫
枝垂れ枝の八重紅梅の裏表
見下ろして犬に吠えられ暖かし
ききとめし春暁の言葉忘れけり
額縁の金やはらかに花菜挿し
吾子の眼のすなはち楽しお白酒
薄紅梅の色をたたみて櫻餅
春灯や借りたるペンを使ひ慣れ
春水のただただ寄せぬかへすなき