芽ぐみ来し木木と思ほゆ夜道かな
病院の静かに混める花曇
肩にある落花の色は濃かりけり
輝きし落花花間にまぎれたり
黒板に遅日の文字の消し残し
卒業を祝ふ一人を忘れゐし
惜春や聞けば見し花いぬふぐり
濱の砂まだ冷たけれ櫻貝
離りきて松美しや櫻貝
落葉松焚いて炊ぎて春の月
さきほどの違へし道も春の月
うち交る草も見覚え土筆籠
いつしかや手のあたたかく春の雪
荘番の客と見上げて春の雲
東風の波舳走りて艫沈み
水温む筧も松も砂を出で
下萌や石は大地に根を沈め
俥屋のすぐうなづきて東風の道
焼く土手の上にぬぎたる布子かな
春泥につづき煌く星もあり
掘割に思ひ思ひに春の水
春水や乱るる葦にわかちなく
春火鉢手相讀ませし手をかざす
夜櫻の道を教へて行かせつつ