和歌と俳句

春の月

下ろし行く数の蔀や春の月 喜舟

森を出て妙にも白し春の月 石鼎

春の月ふけしともなくかかやけり 草城

この匂藪木の花か春の月 龍之介

春の月常磐木に水際仄なる 龍之介

楢よりも椿に明し春の月 石鼎

春月や蘭のほとりの小さき闇 石鼎

薄雲や春月出でて白妙に 櫻坡子

山霊のむささびなげて春の月 石鼎

昼摘みし芽の木は見えず春の月 石鼎

春の月銀杏にそうてかくれがち 石鼎

近きほしを明るう照らし春の月 石鼎

春月のまだ色なしや潦 橙黄子

丸窓に春の月あり立てば無し 櫻坡子

松ふぐり見えてかゝりぬ春の月 花蓑

春月やひそかに縫うて死布団 石鼎

春月を浴び来し衣を衣桁かな 喜舟

揺れあがりすわる春月松の上 櫻坡子

大空に春の月あり樹樹の影 普羅

風出でて傾きそめぬ春の月 普羅

春月や謡をうたふ僧と僧 普羅

とくいでて春月高し湖の上 秋櫻子

おもひきや春月のぼる藪のひま 秋櫻子

春月の暈の下なる京都かな 播水

春の月蛤買うて仰ぎけり 虚子

春月に井を汲む人や宵のほど 石鼎

春月の赤きが枝にかかりけり 万太郎

春月や灯つらなる一と岬 茅舎

國原や桑のしもとに春の月 青畝