陽炎や掃き起したる朽芭蕉
陽炎や日に熱しある廬遮那仏
陽炎や土くろぐろと菜の畑
走り芽の小さき緑や花蘇枋
庵松の幹厳とある朧かな
星二つ並ぶもありし朧かな
降りいでて外のくらさや春の宵
一茎の芹あきらかや蝌蚪の水
大風の花のなかなる柳かな
長烏賊の桶のくらさや花の雨
吹きあげて花ちりしづむ光かな
風むきの今日藪へ散る桜かな
小繍毬花の日かげ日なたの蝶々かな
地にのりて暫し消えざる石鹸玉
石鹸玉横に流るゝ目のあたり
山吹の這うて美事や芝の上
木瓜の根に眼をあけてゐし蛙かな
白藤とたそがれてゐる子鹿かな
春寒をかこちあひつゝ句会かな
鶯の日に光りつゝ枝うつり
春雨や山崩のまゝなる温泉の山
柴折戸のかくまでぬれて春の雨
春泥や静かに這うて庵煙
あるとせし渡今なき霞かな