和歌と俳句

原 石鼎

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春雷やどこかの遠に啼く雲雀

椿一つ幹の向に落ちし音

春暁の今は日のさす松ばかり

春暁や次第にたかくなく雀

笑まんとすままに眠りぬ夜半の春

山霊のむささびなげて春の月

昼摘みし芽の木は見えず春の月

近きほしを明るう照らし春の月

春の月銀杏にそうてかくれがち

この海やまへだつおもひかな

やあはれなるほど喉ふくれ

囀や一羽のために揺るる桑

陽炎の上ると見れば下に哉

どろあそびねやが蝶を捕つてきた

蜂がきてちんちをさすぞどろあそび

どろあそび椿の花もうめてみる

大口をあけて震へる雀の子

口あけて我れに赤さや雀の子

雀の子死んで悲しくなりました

春雨や空一様の薄明り

青天に嶺を走らすつゝじかな

曇れども紅おとろへず花つゝじ

高嶺や日にこたへ鳴る雪解川

残雪や紅き実による日ぐれ鳥

杣が瞳にくれてしまひぬ蕗の薹