和歌と俳句

原 石鼎

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11

海見えても来ぬ谷のさま

春雷や杵築の人の気のたかき

山かけて垣結ふ寺の椿かな

禰宜の子と蜑の子遊ぶ椿かな

浜風になぐれて高き蝶々かな

浜草に踏めば踏まるる雀の子

妻あらば衣もぞ掛けん壁おぼろ

蛙ともならまし悔や草朧

陽炎や浜に地網の二ところ

そぞろ出て日永に顔をさらしけり

湖と水田と通ふかな

春風や野にふるひたつ山椒の芽

春風や吹かれこぼるる巌の砂

春風に捨ててもどらん魚の腸

春風に暮れて人冷ゆ大伽藍

春雨や浜に堆きあくた塚

蜑が家のに居りし烏かな

磯山のさびしき花も散りにけり

花烏賊の腹ぬくためや女の手

磯際や花烏賊すゝぐ籠二つ

人影や巌に吸ひつく桜貝

大皿に二枚買ひけり桜鯛

行春の浦に烏のこだまかな

盤石をぬく灯台や夏近し