和歌と俳句

春の風

駒の尾に春の風吹く牧場哉 子規

生壁に花ふきつける春の風 子規

春風や木の間に赤き寺一つ 子規

春風や石に字を書く旅硯 子規

春風や森のはづれの天王寺 子規

春風や道標元禄四年なり 碧梧桐

春風やかけならべたる能衣装 虚子

堂の名は皆忘れけり春の風 子規

春風や女の馬子の何歌ふ 漱石

門を出て五六歩ありく春の風 碧梧桐

春風ににこぼれて赤し歯磨粉 子規

欄間には二十五菩薩春の風 子規

乱山の尽きて原なり春の風 漱石

刀うつ槌の響や春の風 漱石

限りなき春の風なり馬の上 漱石

筑後路や丸い山吹く春の風 漱石

金襴の軸懸け替えて春の風 漱石

春風の吹いて居るなり飴細工 碧梧桐

瓢かけてからからと鳴る春の風 漱石

春風や馬を乗せたる貢船 虚子

子規
武蔵野に春風吹けば荒川の戸田の渡に人ぞ群れける

春風に祖師西来の意あるべし 漱石

禅僧に旗動きけり春の風 漱石

カナリヤの夫婦心や春の風 碧梧桐

利玄
おくれては母のあと追ふをさな兒のおさげの髪に春の風吹く

晶子
うつくしき花屋が妻の朝髪とわが袖と吹く春の風かな

晶子
玉まろき桃の枝ふく春のかぜ海に入りては真珠生むべき

晶子
春のかぜ加茂川こえてうたたねの簾のなかに山吹き入れよ

晶子
十ばかり小馬ならびて嘶きて春風よぶや牧の裾山

布さらす磧わたるや春の風 漱石

加茂にわたす橋の多さよ春の風 漱石

雀巣くふ石の華表や春の風 漱石

晶子
春風はわが面すぎてかくれけりかづき給へるうばの玉藻に

晶子
桃色の春かぜの吹くこころより浄らなるなし浮きたるはなし

鶏の尾を午頃吹くや春の風 漱石

春の風九里峡二十里奥のあり 碧梧桐