和歌と俳句

與謝野晶子

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花のあたり ほそき滝する 谷を見ぬ 長谷の御寺の 有明の月

掛け香の けむりひまなき 柱をば 白き錦に つつませにけり

三井寺や 葉わか楓の 木下みち 石も啼くべき 青あらしかな

棹とりの 矢がすり見たる 舟ゆゑに 浪も立てかし しら蓮の池

姉なれば 黒き御戸帳 まづ上げぬ 父まつる日の ものの冷たき

更くる夜を いとまたまはぬ 君わびず 隅にしのびて 皷緒しめぬ

きりぎりす 葛の葉つづく 草どなり 笛ふく家と 琴ひく家と

蓮を斫り 菱の実とりし 盥舟 その水いかに 秋の長雨

青雲を 高吹く風に 声ありて 讃じたまひし 恋にやはあらぬ

斯くは生ひて ふりわけ髪の 世も知らず 古りにし磐うつ 深院のひと

春日の宮 わか葉のなかの むらさきの 藤のしたなる 石の高麗狗

第一の 美女に月ふれ 千人の 姫に星ふれ 牡丹饗せむ

このあたり 君が肩より たけあまり 草ばな白く 飛ぶ秋の鳥

家鼬 尾たるる相の むかしがほや 瓜ひとめぐり 嗅ぎても往ぬる

才なさけ 似ざるあまたの 少女見む われをためしに 引くと聞くゆゑ

わが恋は いさなつく子か 鮪釣りか 沖の舟見て 見てたそがれぬ

白きちさき 牡丹おちたり 憂かる身の 柱はなれし 別れの時に

星よびて 地にさすらはす 洪量の 人と思ふに 批もうちがたき

花に見ませ 王のごとくも ただなかに 男は女をつつむ うるはしき蕋

在さぬ二夜 名しらぬ虫を 籠に飼ひぬ 寝がての歌は 彼れに聞きませ