和歌と俳句

與謝野晶子

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あやにくに 虫歯病む子と こもりゐぬ 皷きこゆる 昼の山の湯

君によし 撫でて見よとて 引かせたり 小馬ましろき 春の夕庭

花とりどり 野分の朝に もてきたる 十人の姿 よしと思ひぬ

七たりの 美なる人あり 簾して 船は御料の 蓮きりに行く

かしこうて 蚊帳に書よむ おん方に いくつ摘むべき 朝顔の花

ふるさとや わが家君が家 草ながし 松も楓も ひるがほの花

よき箱と 文箱とどめて いもうとは 玉虫飼ひぬ うらみ給ふな

水にさく 花のやうなる うすものに 白き帯する 浪華の子かな

春の池 楼ある船の 歩み遅々と 行に慣れたる みさぶらひ人

夏花は 赤熱病める 子がかざし あらはに歌ひ はばからぬ人

伯母いまだ 髪もさかりに なでしこを かざせる夏に 汝れは生れぬ

行く春に もとより堪へぬ うまれぞと 聞かば牡丹に 似る身を知らむ

妻と云ふに むしろふさはぬ 髪も落ち めやすきほどと なりにけるかな

われに遅れ 車よりせし その子ゆゑ 多く歌ひぬ 京の湯の山

夕かぜや 羅の袖うすき はらからに たきものしたる 椅子ならべけり

わが愛づる 小鳥うたふに 笑み見せぬ 人やとそむき 又おもひ出ず

かへし書く ふたりの人に 文字いづれ 多きを知るや 春の染紙

われぼめや 十方あかき 光明の われより出でむ 期しるものゆゑ

ふりそでの 雪輪に雪の けはひすや 橋のかなたに かへりみぬ人

かけものの 牛の子かちし 競馬のり 梅にいこふを よしと思ひぬ