蓮きると 三寸とほき 花ゆゑに みぎはの人の さそはれし舟
憂ければぞ 爪に紅せぬ 夕ぐれを 色は問はずて 衣もてまゐれ
舟にのれば 瓔珞ゆらぐ 蓮のかぜ 棹のひとりは 袞龍の袖
しら蓮や 唐木くみたる 庭舟に 沈たきすてて 伯父の影なき
われを問ふや みづからおごる 名を誇る 二十四時を 人をし恋ふる
ここすぎて 夕立はしる 川むかひ 柳千株に 夏の雲のぼる
水浴みては 渓の星かげ 髪ほすと 君に小百合の 床をねだりし
百合がなかの 紅百合としも のたまふや をかし二人の 君が子の母
誰れが子か われにをしへし 橋納凉 十九の夏の 浪華風流
露の路 畑をまがれば 君みえず 黍の穂に こほろぎ啼きぬ
鳥と云はず 白日虹の さす空を 飛ばば翅ある 虫の雌雄とも
夏の日の 天日ひとつ わが上に ややまばゆかる ものと思ひぬ
百閧フ 大き弥陀堂 ひとしきり 煙みなぎり 京の日くれぬ
夕されば 橋なき水の 舟よそひ 渡らば秋の 花につづく戸
母屋の方へ 紅三丈の 鈴の綱 君とひくたび 衣もてまゐる
君やわれや 夕雲を見る 磯のひと 四つの素足に 海松ぶさ寄せぬ
里ずみに 老いぬと云ふも いつはりの 歌と或る日は 笑めりと思せ
きざはしの 玉靴小靴 いでまさずば 牡丹ちらむと 奏さまほしき
恋しき日や 侍らひなれし 東椽の 隅のはしらに おもかげ立たむ
ほととぎす 岩山みちの 小笹二町 深山といふに わらひたまひぬ