御空より半はつづく明きみち半はくらき流星のみち
風来り白き朝顔ゆらぐなりこだまが持てるくちびるのごと
道白しここより流れ入りぬらん森をひたせる蝉の声かな
秋の夜に君を思へば虫の音の波やはらかに寄る枕かな
ここかしこ雑木の中にまろがれる深山の藤は見て寄りがたし
侮りて皐月がすなる光明の病と呼びぬ罌粟咲くことを
何ごとに物ごりしたるかたくなに縦に咲きたる木蓮の花
何となくうらはかなけれ空見れば正月の日の西に傾く
唯だ一つ夏より秋へ人はこぶ車あゆめり吾妻平
車して十二ケ岳の麓行くさびしかりけり上つ毛の国
片側に月忍び入り新湯川きよく痩せたる水となりぬる
人の子は岸の砂楊に埋もるる新湯の川に月埋もるる
家家は燈籠のごと灯の入りていでゆの渓の涼しき夕
四万の里呑まんとしては躊躇へりをかしき空のいなづまの口
稲妻を山の宿屋の広庭に眺めて秋を待たんとすらん
十畳の座敷の壁に赤あきつあまたとまれる山籠りかな
葛の葉は紫摩山荘の廻廊に似ずはかなげに岩を這ひたる
四万の奥工場のトロの過ぎ去れば蓬の匂ふ山荘の窓
摩耶の峰抱く心となる時も背ける時も山おろし吹く
ちまき巻く日向見少女浴めよと云ひぬ深山に雷鳴る日
杉木立杯ほどの白雲の摩耶の峰より散りもこしかな
女郎花葦かびまじり咲く岸に渡りこよとて置ける板橋
川岸の草むらに居てつつましく三味をさらへぬ馬追虫は
かはほりの羽をもちたる山ありて渓をおほへり月昇れども
おのが路見出でしやうに月影をたのみて水の走る川かな