この五日 うつし心も なきわれは 狐の墳を 踏みてこしかも
撥に似し もの胸に来て かきたたき かきみだすこそ くるしかりけれ
彼の人は 七面鳥を 調じたる あつものをのみ ほめてかへりぬ
変らじと すれど心の うごく時 みそぎしにゆく 手枕のうへ
男にて 鉢叩きにも ならましを 憂しとかかこち うらめしと云ふ
大鳥の 爪にしたたる 血さへ吸ひ 山にありしも さとらむがため
西方の 垂天の雲 むらさきに 東方の山 青きゆふぐれ
玉くしげ 箱の蓋とる ごとくにも 山しとりなば 鳥立つらむか
ものがたり 二なき上手の 話より もののあはれを 思ひ知りにき
恋ひぬべき 人をわすれて 相よりぬ その不覚者 この不覚者
わが脊子と かきかはしたる 文がらの 古き香かげば 春日しおもほゆ
見るかぎり 絵などに書きて おきたまへ 一いろならぬ 心の人を
君悼む ことばとてしも 身をつくし 文かきしより もの思ひする
かけひより 青銅の壼に 水おつる 音をおもひぬ 春の夕ぐれ
あさましく 雨のやうにも 花おちぬ わがつまづきし 一もと椿
少女子は 魚の族か とらへむと すればさまよく 鰭ふりて逃ぐ
わが前に 紅き旗もつ 金衛の 一人と君を ゆるしそめにし
その日より また足踏まず たはぶれは おさおさ知らぬ 少女となりぬ
朝顔の 蔓きて髪に 花咲かば 寝てありなまし 秋くるるまで
篠の葉を 鳴らす風かな おりたちて 鰕吸む川の 有明月夜