山しろの 桂の川の 瀬の音に 枕する夜も わすられぬ君
ゆきかへり 八幡筋の かがみやの 鏡に帯を うつす子なりし
うまごやし 四つ葉見ありく こともなき 君とわれとの しとねに借りぬ
あひだなく き蔦はふ すさまじさ それには似ずで 髪ほそき人
いそのかみ 古き櫛笥に 埴もりて 君がやしなふ 朝顔の花
つなみなど 山崩などに おどろかず あれよと雲は つねにゆきます
秋立つや 鶏頭の花 二三本 まじる草生に 蛇うつ翁
大き寺 大き寺との その中の 原に虫啼く 蘇州のゆふべ
ちかひごと わが守る日は 神に似ぬ すこし忘れて あれば魔に似る
母もまた しかく云ひけり その昔 ななめにききし をしへの中に
毒草を 小床に敷きて ねむらさむ 家ならなくに ゆるされずてふ
豊かなる 心と名け 五人の ひとを思ふを こととするかな
心まづ おとろへにけむ かたちまづ おとろへにけむ 知らねど悲し
さきに恋ひ さきにおとろへ 先に死ぬ 女の道に たがはじとする
桐のちる 音きくごとく さやかなる 響は立てね 髪おちてゆく
一はしの 布につつむを 覚えける 米としら菜と からさけをわれ
大寺の 石の御廊に ひざまづく 瞽女のやうにも 指組む夕
黒き爪 長く生ひたる 山の神 木づたひありく 夜のさびしさ
葦間より 霧たちのぼり 羅のたもと 寒しと泣けば 秋来とおもふ
しら萩と 紅萩の花 ちりたるを たはぶれに賜ぶ 三日の夜の餅