われに云ふ 言葉も知らず かにかくに やせやせてある あはれなる人
君が髪 思ひの外に 長くと云ふ ましてこころを 何と知りきや
すぐれたる 人を恋する いちじろき ことに死なむと 思ひたちにき
夕ばえの 雲あかくして そことなく 浜なでしこの 安房の国見ゆ
梅の原 中に二木の 松ありて 春日の雪を いただきて居ぬ
春の夜の ものかいなかは 知らねども 玉のやうなる 白椿かな
かげろふや 旗ぼこ並べ 君王の 御車すぎし 路のべに立つ
幽かなる 恋の一つと さかしらを 友のしてより わが心うし
われに来て いこふ人をば こころよく もてなしまつる なからひにして
加茂人は 忘れさせよと ことづてし 御禊を神に おこたり居らむ
翅ある 人の心を 貰ふてふ ことはあやふし 貰はずば憂し
今日の日に ちかき明後日まで 変らじとだに 云はぬ人かな
いつやらむ わがため悪しき 人生みし 天地おもひ 涙ながるる
手にふれし 寝くたれ髪を われ思ひ 居れば蓬に しろき露おく
かなかなの 蝉もおもしろ 蠅の来て しろき額に 墨うつもよし
まはり縁 小き足袋さげ 走りこし 君を見し日は 十二の童
夜に近し ものを思へと 初秋の かぜは簾を うごかして行く
秋の風 やがて冷たき しら玉に なると気づきぬ あまり立てれば
山吹の 花の一つを からたちの 垣根の上に 置きてこしかな