友きたり 恋をほこらふ うち見ては さばかりわれの 神さびたるや
長老は 珠数をおしもみ 沙弥はみな 沈の香焚き われをいのりぬ
その白さ そこひも知らぬ 尊さの 大き牡丹は まぼろしを生む
青色の をしどりの毛の 浮きし水 なまめかしけれ きさらぎの朝
誓へと云ふ 五千載はた 八千載 これらは虚無に ひとしきものを
すなほなる 心うしなひ 地の上に 家あるをすら 逆ごととする
いまのわれ 歎くがごとき はるかなる 中とは神も つくらざりしを
静かなる 君が心に 人恋ふる 嵐のごとき 胸はうつらじ
いただきの 松に雪ふる あらし山 春の初めに 君と見るかな
わが兄は 紅き面して はじかみを かみて吐きぬ 飯もまゐらず
焼鉛 背にそそがれし いにしへの 刑にもまさる こらしめを受く
手をとれば いとこころよき 人も見ず 釈迦のをしへ 練りたる心
左にて 小刀つかひ 木の実など 彫りける兄と はやく別れき
透見しぬ 菖蒲の節句の 朝かぜに 吹かれてなびく 雲のいろいろ
君がかげ 胸にすこしく 消えぬゆゑ ものとどこほる ここちこそすれ
海に居て 山をしながめ 木の実とる 細腰の子を 思ひても見つ
階上の 戸を閉めに行 く春の宵 臆病の子も にくからぬかな
いささかの 涙ちりつつ 思ふこと ある夜もあれど なべては安し
君に逢ひ 思ひしことを 皆告げぬ 思はぬことも 云ふあまつさへ