表まち わが通るとき 裏町を 君は歩むと 足ずりをする
水無月の あつき日中の 大寺の 屋根よりおちぬ 土のかたまり
云ひ知らぬ わづらひすなり われに似ぬ 清きをとめを 憎むやまひに
いくたりの 及びがたかる 人とする われにあかずば 殺させ給へ
おほらかに 黒き脊見せて 勇魚ゆく 上総の海の あかつき月夜
ねたむとは 恋のことばに 角つくり 一時あまり いだかれぬこと
世のつねの 貶しめごとに ひとしきは 涙ながして 思ひえしこと
みじかきを なげくならねど 生きて世に 三とき男の いだきける人
若き子は おほむねねたし ほろほろと 涙するまで 胸いたきまで
秋の霧 身をまく時に くろ米の 飯のにほひを おもひ合せつ
見るままに かまど作りて きのこ飯 かしぐまはりに 七人は寝る
大琵琶の みづうみよりも 竹色の 苗代田こそ ひろびろと居れ
おぼつかな 山脈もつれ 方しらず としも歎けば 飛騨に入りにき
月見草 花のしをれし 原行けば 日のなきがらを 踏むここちする
かの星を 光るけものの 尾と云ふも よしと思はむ 名はあざめかし
小さなる 三角の箱に 住むやうに 額のみ打つ あなう世の中
その家は やがて崩れぬ うき思ひ しつつふたたび つくりいとなむ
合歓の木の 感ずるごとく 男みな しをれぬはなし 人妻てふに
いぶかしき 人にもあるか 先の世の ことをことごと 現とおもへる
この君か われか二人の 何れにか 若さをかへせ 恋つきぬため