秋の雨 わたり二間の わだとのの 洞の中より 灯をもちてきぬ
をかしかり 此より君を さそひしと 万人の云ふ さかしまごとも
火の跡の 灰といささか ことなれる このおもむきを 君は知るらむ
逢はましと 思ひしものを 紅人手 一つひろひて かへりこしかな
石七つ ひろへるひまに わが心 大人になりぬ 石捨ててゆく
開かれて おのれ入りたる 大門よ 後も閉ぢざる この大門よ
君おきて 二三の子らの うはさする 我は苦しき ならひつくりぬ
秋かぜの 夕の辻に 立つときは 昔わすれし 人もこひしき
夕されば 浜の出島の うたひめの 島田にまじり かはほりぞ飛ぶ
山山に 青木の柵を 結ふ神の 来しと夢みぬ 春くることを
雪の日は 深靴を穿く さばかりの 慮りも 恋に無してふ
おなじ火に 燃えたまふべき 心かと 一たび問ひぬ 死のしばしまへ
男をば はかると云ふに 近き恋 それにもわれは 死なむとぞ思ふ
冬の夜を 半夜いねざる 暁の こころは君に したしくなりぬ
山薫る 四月と海の 風ほめく 八月などを 好みぬわれは
むらさきに 春の風吹く 歌舞伎幕 うしと思ひぬ 君が名の皺
泣くことを 制することは 知らぬ子の あまたにわれは かかづらひつつ
日をば見ぬ かげにかくれて 恋せむと あへて思ひし われならなくに
みづからの 恋のきゆるを あやしまぬ 君は御空の 夕雲男
人すつる われと思はず この人に 今重き罪 申しおこなふ