和歌と俳句

長閑 のどか

貫之
花ににず のどけきものは 春霞 たなびく野辺の 松にぞありける

西行
花もちり人もこざらむ折は又山のかひにてのどかなるべし

のどけしや港の昼の生肴 荷兮

長閑さや早き月日を忘れたる 太祇

長閑さや垣間を覗く山の僧 一茶

長閑さや浅間けぶりの昼の月 一茶

呼あふて長閑に暮らす野馬哉

のどかさや松にすわりし眞帆片帆 子規

鶴の声これより空の長閑なり 子規

のどかさや内海川の如くなり 子規

のどかさや豆のやうなる小豆島 子規

のどかさや千住曲れば野が見ゆる 子規

明天子上にある野の長閑なる 漱石

長閑なる水暮れて湖中灯ともれる 碧梧桐

土竜穴納屋に明きしも長閑なり 碧梧桐

浮草に根が生えかねし長閑かな

長閑なるものに又なき命かな 万太郎

人形も馬もうごかぬ長閑さよ 漱石

のどかさや艪を押す人のそるのめる 喜舟

留守居して目出度思ひ庫裏長閑 漱石

長閑さや暮れて枯草ふくらめる 水巴

島影に吠えたつ小犬畑長閑 泊雲

閑さや畑打つ人の咳払ひ 石鼎

のどかさの風鐸空にこはれをり 爽雨

長閑さや山ふところの木の根ほり 烏頭子

山寺の古文書もなく長閑なり 虚子

籠のどか欠勤届二三枚 草城

長閑さにまだゐる鴨や浦戸湾 たかし

届きたる柴に花咲く長閑かな 槐太