和歌と俳句

紀貫之

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糸とさへ 見えて流るる 滝なれば 絶ゆべくもあらず ぬける白たま

松のねに 出づるいづみの 水なれば おなじきものを 絶えじとぞおもふ

いはひつつ うゑたるやどの 花なれば おもふかごとの 色濃かりけり

かぎりなく わがおもふ人の ゆく野辺は 色やちぐさに 花ぞ咲きける

さを鹿の をのへに咲ける 秋萩を しがらみ経ぬる 年ぞ知られぬ

菊の花 うゑたるやどの あやしきは 老いてふことを 知らぬなりけり

ささらなみ よするところに すむ鶴は 君が経む代の しるべなるらむ

ちるがうへに ちりしつもれば もみぢ葉を ひろふ数こそ しぐれなりけれ

紅葉ちる このした水を 見るときは 色くさぐさに 波ぞたちける

あしひきの やまの榊の ときはなる かげにさかゆる 神のきねかも

春たたむ すなはちごとに 君がため ちとせつむべき 若菜なりけり

若菜おふる 野辺といふ野辺を 君がため よろづ代しめて つまむとぞおもふ

花ににず のどけきものは 春霞 たなびく野辺の 松にぞありける

松風の 吹かむかぎりは うちはへて たゆべくもあらず 咲ける藤波

おもふこと 滝にあらなむ 流れても 尽きせぬものと やすくたのまむ

まつ風は 吹けど吹かねど しらなみの よするいはほぞ 久しかりける

苔ながく 生ふるいはほの 久しさを 君にくらべむ 心やあるらむ

かの見ゆる たづのむら鳥 君にこそ おのが齢を まかすべらなれ

いかでなほ 君が千歳を 菊の花 をりつつ露に 濡れむとぞおもふ

菊の花 したゆく水に かげ見れば さらに波なく おいにけるかな