和歌と俳句

日野草城

10 11 12 13 14 15 16 17 18 19

しづしづと下向の虚子や花しぐれ

たたずめば御裳裾川の春の水

初花の水にうつろふほどもなき

夕空にまぎれむとして初花

夕空のはなやかになりぬ仏生会

シネマ観て出て来てひとり春の雨

春雨や地のやはらかき服を着て

人混みにまぎれて泣けり春の訣れ

つばくらや還暦翁は泰然と

花冷やはるかに燃ゆる花篝

あらはれてかくれて咲ける山躑躅

ひと房にここだ馬酔木の花の壺

志高からず春暮るるかな

足もとへ斜めに窓の春日射

うらら指紋もあらぬ卓の面

漆黒の卓上電話春陽

うらら珠みだれたる算盤に

のどか欠勤届二三枚

二つづつくばるあみだのさくら餅

計算機鈴ひびかせて暮遅き

サイネリア花たけなはに事務倦みぬ

ぼうたんの芽とあたたかし日おもてに

牡丹の芽群にそびえ塔ふたつ

欠勤の遅刻もあらず日の永き

宝飾の窓に佇ちもす春の夜