しづしづと下向の虚子や花しぐれ
たたずめば御裳裾川の春の水
初花の水にうつろふほどもなき
夕空にまぎれむとして初花よ
夕空のはなやかになりぬ仏生会
シネマ観て出て来てひとり春の雨
春雨や地のやはらかき服を着て
人混みにまぎれて泣けり春の訣れ
つばくらや還暦翁は泰然と
花冷やはるかに燃ゆる花篝
あらはれてかくれて咲ける山躑躅
ひと房にここだ馬酔木の花の壺
志高からず春暮るるかな
足もとへ斜めに窓の春日射
朝うらら指紋もあらぬ卓の面
漆黒の卓上電話春陽に
陽うらら珠みだれたる算盤に
籠のどか欠勤届二三枚
二つづつくばるあみだのさくら餅
計算機鈴ひびかせて暮遅き
サイネリア花たけなはに事務倦みぬ
ぼうたんの芽とあたたかし日おもてに
牡丹の芽群にそびえ塔ふたつ
欠勤の遅刻もあらず日の永き
宝飾の窓に佇ちもす春の夜は