和歌と俳句

遅日

暮遅し人ちらばりて相寄らず 虚子

潮さげて遅日の汀すすみけり 草城

遅き日の校倉は古りほうけたる 草城

遅き日や日輪ひそむ竹の奥 泊雲

さゝやかな夕餉すまして暮遅し 淡路女

遅き日やむかしながらの湯治道 青畝

遅き日や硯の上のかへりごと 青畝

戻り路に塔の相寄る遅日かな 草城

ひとすぢに山坂垂りて遅日かな 草城

松伐つて積む家近き遅日かな かな女

温室のまはりは遅日の子等あそぶ かな女

青竹の間を歩く遅日かな 草城

十八のホールの旗の遅日かな 草城

驛遅日遠の方にも汽車が居り 汀女

家ごとの縁側仕事遅日かな 汀女

灯ともりてなほ遅日なる木の間かな 草城

洞門に昼月もある遅日行 蛇笏

かもめ飛ぶ観潮の帆の遅日かな 蛇笏

地球儀をもてあそびつつ書舗遅日 汀女

右窓に又も遅日の日がまはる 立子

城内に機音たかき遅日かな 鳳作

国境の駅の両替遅日かな 虚子

暮遅や木の間がくれの五十鈴川 万太郎

大き荷を遅日のバスに乗せんとし 汀女

計算機鈴ひびかせて暮遅き 草城

墓の影墓にもたれて暮れ遅き 草城

独立展鎖せども飽かずゐる遅日 誓子

立仕事坐仕事や浜遅日 たかし

野の祖母は遅日の孫を後へにし 汀女

鴉見し屋根に遅日の時計鳴りぬ 楸邨

ながしめす駱駝に旅の遅日光 蛇笏

駱駝ゑみ驢が小跳ねして暮れ遅き 蛇笏

盧溝橋遅日の駱駝うち連るる 蛇笏

黒板に遅日の文字の消し残し 汀女

遅日暮れ海坂四方にそゝり立つ 遷子

事務終へてしばし遅日の卓に読む 汀女

暮遅し鞴動かす町も過ぎ 誓子

一本の遅日の燐寸燃ゆるひま 汀女

駅燈の青きを提げて遅日暮る 誓子

あまきものさちに欲りつつ暮遅き 草城

一隅に遅日の厨つかさどり 汀女

遅き日や木の間となりし五十鈴川 万太郎

軽雷のあとの遅日をもてあます 秋櫻子

生簀籠波間に浮ける遅日かな 真砂女

暮遅し潮いくばくあるか知らず 誓子

ぬかるみが柩車あやつる遅日かな 不死男

独り句を推敲をして遅き日を 虚子

宮址見る遅き日まろびやまぬ野に 爽雨

日の遅さ死の口上を飛脚して 静塔