和歌と俳句

高浜虚子

前のページ< >次のページ

熊野灘少し荒れたりを思ふ

梅を見て明日玄海の船にあり

風師山梅ありといふ登らばや

日本を去るにのぞみて梅十句

梅水仙王一亭の応接間

長江の濁りまだあり春の海

春潮や窓一杯のローリング

上海やつつじ倚り咲く太湖石

名を書くや春の野茶屋の記名帳

の寺パイプオルガン鳴り渡る

色硝子透す春日や棺の上

売家を買はんかと思ふの旅

雀等も人を恐れぬ国の

春雨に濡れては乾く古城かな

木々の芽や素十住みけん家はどこ

望楼ある山の上まで耕され

フランスの女美し木の芽また

霞む日や破壊半ばのトロカデロ

真直ぐに歩調そろへて青き踏む

倫敦の春草を踏む我が草履

コルシカに春の日赤く今沈む

宝石の大塊のごと春の雲

国境の駅の両替遅日かな

卓上のあわて咲き葉を出しぬ

舟橋を渡れば梨花のコブレンツ

両岸の梨花にラインの渡し舟

梨花村の直ぐ上にあり雪の山