和歌と俳句

霞 かすみ

籬より麦踏み出でぬ昼霞 素十

白波を一度かかげぬ海霞 不器男

うすうすと霞の中の妙義かな 花蓑

鳴交す鴉の嘴の霞かな 喜舟

うち仰ぐ山ふところの霞かな 石鼎

古き代の漁樵をおもふ霞かな 蛇笏

島三つ巴に霞む浦もあり 花蓑

門跡の屋根拝まるゝ霞かな 喜舟

手拭に包める髪や霞む旅 喜舟

奥津城や顧みすれば夕霞 月二郎

送電塔が山から山へかすむ山 山頭火

死ぬよりほかない山がかすんでゐる 山頭火

いつの間に湾へ入りゐて霞む旅 石鼎

甲板よりみな陸を見る霞かな 石鼎

かすみだつ漁魚の真青き帆かげかな 蛇笏

目の下に霞み初めたる湖上かな 久女

争へる牛車も人も春霞 久女

忽ちに霞める船とこれもなり 汀女

ゆびさされ京都見下ろす霞かな 立子

霞む日や破壊半ばのトロカデロ 虚子

外濠に鴎浮きたる霞かな 石鼎

波かすみこころあてなる富士もなし 悌二郎

向うむく人に霞や背にも 石鼎

昼深く野霞屋根に寄ゐけり 亞浪

かすみ来ぬ芽の疾きおそき楢櫟 亞浪

鯛網の沖とは聞けどうち霞み 爽雨

夕霞片瀬江ノ島灯り合ひ たかし

嗽霞を見つつ冷たかりき 波郷

時計塔霞みつつ針濃ゆく指す 青邨

厳島弥山にのぼる霞かな 尾崎迷堂

かすみつつさらに翠の松垂るる 秋櫻子

聞かぬ日もありて鐘の音霞みけり 花蓑

春霞老母と天とややへだつ 耕衣

燈台の遠の南のゆふがすみ 槐太

手に足に蟻や国原霞みけり 波郷

最上川嶺もろともに霞みけり 波郷

しばらくは入日まばゆき霞かな 万太郎

城をやや距たるからに藪かすむ 誓子

霞む日の天守閣上の人となんぬ たかし

霞む日や町音城を包みたる たかし

香具山は畝傍を愛しと添い霞み たかし

飯盒の飯のつめたき霞かな 波郷

負へるものみな磐石や夕霞 波郷