和歌と俳句

霞 かすみ

榛名山大霞して真昼かな 鬼城

爪を切るほうけ話や昼霞 鬼城

葛城も丸き山なる霞かな 碧梧桐

屯田の父老の家かすみけり 碧梧桐

十勝野に我立つと四顧の霞かな 碧梧桐

いつの間に霞みそめけん佇ちて見る

潮あとの海月とろけつ昼霞 亞浪

水のなき川ばかりなる昼霞 亞浪

風鐸のかすむと見ゆる塔庇 蛇笏

茂吉
ほのかなる 花の散りにし 山のべに 霞ながれて 行きにけるかも

谷杉の紺折り畳む霞かな 石鼎

塗笠に遠き河内路霞みけり 漱石

湖と水田と通ふ霞かな 石鼎

牧水
むら山の峡より見ゆる白妙の岩木が峯に霞たなびく

重き戸に手かけし春霞の晴れ 碧梧桐

心ややにおちつけば遠山霞かな 山頭火

憲吉
裏山の樹にたつ霞いや日けに眼ぢかくおほくなりにけるかも

耕平
み空ゆく月の光は澄みながら山の枯原かすみたるらし

日を恋うて已に星ある霞かな 石鼎

空の濃さに霞の色もありにけり 茅舎

牧霞西うちはれて猟期畢ふ 蛇笏

入日山霞の中に現はれし 花蓑

島二つ色異にして霞みけり 花蓑

枝の芽に星光り出し霞かな 石鼎

峰の雲雲ととけあひかすむかな 石鼎

水泡噴いて水脈しばしたつ霞かな 石鼎

縫物の膝から霞む日なりけり 喜舟

霞みたる四山の中の午砲かな 播水

久方の雪嶺見えて霞みけり 花蓑

あるとせし渡今なき霞かな 石鼎

こて入れて火桶に妻や春霞 石鼎

白秋
濃き淡き遠山霞あかねさし夕べは親し日の洩れにけり

大松に吹かれよどめる霞かな 月二郎

迢空
わが居る 天の香具山。おともなし。春の霞は、谷をこめつつ

雪の嶺の霞に消えて光りけり 花蓑

庭松に裏山霞下りてあり 花蓑

葛飾や月に霞める水田圃 花蓑

蕾一つ見えし椿にうす霞 石鼎

霞む日や神の使の鳩雀 石鼎

汽車の音こころしづかな霞かな 鴻村

堰きれば野川音ある霞かな 槐太

山荘に終る句会や夕霞 たかし