冬の日の低くし照れる焼原にやや砂けぶり吹き立ちにけり
久方の天のそぎへに真壁なす信濃の嶺ろは雪かづきたり
草の戸に時雨るる日なりききとして百舌鳥啼きすぐる聲の悲しさ
寂しさに耐へてもの焚く日ぐれ時板戸の外にしぐるる音す
仰ぎ見る空の色さへ澄みはてて木枯の風吹きにけるかも
凩の日にけに吹きて山肌は赭くさびしくなりにけるかも
冬深き日和となりぬ磯に来て一日したしむ青海の色
この岡の日向ぼこりに来慣れつつ冬暖かきことをうれしむ
咲きそめて幾日も経ぬに丹椿の花は木下に散りしきて見ゆ
暖かき日影をとめて来りつる枯生ふのもとに菫咲くはや
春さらば菫を摘みておくらむと思ひしものを人はむなしき
春の日はうなじに暑しとぼとぼに山原道を歩みつづくる
春雨の晴れゆく方の沖つ空はつかに光る富士の雪かも
木下道すでにかげりて蜩の聲あわただし独り歩むに
磯波の音もとだえし夜のしづみ洋燈の笠にとまる虫あり
ひやびやと夜ふけにけりわが宿の障子に居鳴くはたをりの聲
月きよき夜頃となりぬわが宿の芋畑に来て唄うたふ子ら
三原山裾の榛原うら枯れて鵯鳥のこゑを聞くべくなりぬ
一色に冬枯れにけりこの山の若葉せし日に来しを思へば