山原や杉の若萌黄にほけて日射しほとぼる夏となりけり
一面の穂麦畠にあかあかと風波わたる見れど飽かなく
降る雨に濡れつつ咲けるすひかづら黄色乏しくうつろひにけり
ものうき梅雨にこもりて幾日経し今朝はからずも百合をもらひぬ
おもおもと梅雨のなごりの風吹けり夜目には凄き蜀黍の畑
日ならべて風みなみ吹く梅雨のあけ蜀黍の葉はいたくそよぎつ
月させば大きく光る芋の葉に馬追一つ鳴きいでにけり
月影は畳の上に照りにけり足さしのびて独り安けさ
生けるものつひに儚なくなりぬべし月夜もすがら蟋蟀の聲
遠空に稻妻あれやわが立てる磯の平は暮れわたりたり
いつしかも櫻の花は散りすぎて萼こまかく色立ちにけり
木がくれに小鳥啼きやむ長き日を麦の穂はらら染め出づるなり
梅雨こめて目見に重たき青葉山ほととぎす啼く聲ぞ聞ゆる
霧晴れて眼おどろく青空の色かと見しは大き海原
見めぐらす新島利島伊豆相模安房の岬はいや遙かなり
目にたちて木草の緑ふけにけり今日初あらしとよもして吹く
夏すぎて心さびしも庭のへに稀に寒蝉鳴くばかりなり
ややにしてまた鳴きそめつ寒蝉のただ一つなる利聲さびしさ
出でて見る今宵月あり遥かなる海のおもては照り白みつつ
ひややかに月夜ふけたりわが庭の草村に鳴く虫聲いくつ
仰ぎ見る夜空しづけししみじみと月の面より光流れ来
ぬば玉の夜は更けぬらし庭のへに月傾きて木影横たふ