木枯や昼の酒のむ二人きり
夕月の寒しと水菜さげてゆく
硝子戸に山へだたりし寒さかな
屋根にのぼれば藪入の女来つ
道に出て夜の花かげみだれかな
姉の子の紅椿持たせられけり
梧桐が窓にかぶさる歯の痛み
飲まぬ茶にむくろ浮かべて蚊一ぴき
残陽や蟹も這ひ出る岩がもと
夏雲崩るるうしろに甲斐の国あるや
桑摘みに見られながらや墓をがむ
十五夜の屋根に出て柿もぎたり
電車の音の山の上に柿食うべけり
夜の紫苑一葉の影は濃かりけり
海の照りけうとく蜜柑むきにけり
タンクタンク草をかぶつて霧深し
こがらしの家百姓のちちとはは
冬構久しく家に寝ざりけり
山上にけむりを立てて焚火かな
暮れてゆく年なり飯を食べてゐる
秋刀魚たべておほつごもりの眠りかな
寒月の胸にとほりて夜もすがら
寒凪の担架の空の屋根ばかり
枕頭の花開きたる寒さかな
牛乳うまし寒の入日の雲染めて
豆を撒く父の猫背を夢に見て
眠り居れば春浅き日の早無かり
あたたかき匂ひ鉢花枯れてゆく
ひかひかと瓦にさはる木の芽かな
雲寒く眼につらなりて柳の芽
水呑みに出る桐の芽に月さむく
夕空や蛙聞えてしろくなる
麦の穂にのどをかかれし昔かな
浴衣の足二本出してうつむきぬ
乳の壜二本並んで青葉かな
かはほりや障子はづせば空うかぶ
椋鳥空搏つて新涼の日ざしかな
秋風や電燈くもらす虫の糞
月光の夜夜にとほりて葡萄かな
糸のごと枯れてさみしや曼殊沙華
山近く案山子のうしろ見たりけり
火明りの指につたはる涙かな