和歌と俳句

太田鴻村

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君が代のうたこそ凍みよとのゐの坐

紫を着て枯芝にをとめさぶ

しんとしぬ山の月夜の枝の霜

かすむ日や花のたよりを剥身売

艸萌えめ犬が乳房をゆるなべに

芽ぶく朝の雀と知れどなほ眠る

春暁をさめて箪笥のもとにかな

エプロンを着て山吹を剪りに出る

山のみどり落ち来る妻の膝の上

砂かげろふ瞳にこそばゆき月見草

仏法僧はるかなりせせらぎの音

山ぞらのふしぎに白し仏法僧

姫百合の灯になじめるを妻もとめ

庭茂り月のせせらぎ想はしめ

山の緑に染まりてを釣り暮らす

岩めぐりわき来るをいのちとも

かなかなしぐれ雲やおりゐる身のほとり

かなかなしぐれ今宵の夢に雲湧かむ

かなかなしぐれ竹おのづからゆらぎゐる

枕二つ金魚にとほく並べられ

山の温泉のランプにかよふみどりかな

鼻のほとりに汗ためて何を煮るやらむ

銀河濃き木に風音のこもるかな

穂すすきのしろがねよする風にあふ

子らのなだれへ秋の空から木かげする

髪に来し白蛾の紋の忌まれけり

木のもとをとほくはなれて栃まろび

椎ひろふみごもりびとはにくからね

頬あつきおもひを雪に走せにけり

らうたけてあはれや雪の夜を眠る

冬の日にのけぞる檻の羆かな

鷲の毛の金網に散る寒さかな

うまれくるものをおもへり置炬燵

寒の夜の一燈竹をさまよへる

立春の朝日にぬれて産屋かな

ストーヴに雪を見る眼をけはしうす

雪を衂りし昔の雪がまのあたり

空の青さ障子にしみる梅の宿

春の青空瞳にひめし子を抱きとりぬ

子を抱きてうぐひすの鳴く暮長し

青空へ祭舞台は筵がけ

くぬぎ山やまかたむけて萌えそめぬ

蘆生の子掌にこそばゆく蟹くれぬ

一握の砂こぼしきくは雲雀かな

若蘆の枯蘆まじりそだつなり

ふしどから遠く雲雀は空に鳴く

菖蒲太刀ぬきつかざしつ子に祝ふ

杜若とはの寝顔の浄らかに

女竹はや夕つゆのぼる伊良湖みち

夕涼の荒磯に人のちさくこそ

暮れぬれば海のすだまの月に啼く

月の岩礁海驢出でよと海おらぶ

夏しろき伊良湖の石をもてあそぶ

涼しくて蟹の朽ちをるお寺かな

炎天やつぼみとがらす月見草

雲の峯たなそこの貝もにじりあふ

水鏡澄むほどに吾も澄みぬ

夏老いぬ線香つくりは香に染みて

かや尻におりて夜を鳴く轡虫

蕎麦架けてしぐれやすらむ家のさま

山の町空ゆたに葉ふるふ椋大樹

山空のさむき茜とながめけり

落葉凪ぎ芝居囃子の谷底へ

天離る百合の下葉のうち黄ばみ

毛糸店の菊は造花をおもはしめ

富士しろく芒の枯れにうかびたり

木の葉舞ふ天上は風迅きかな

空の瑠璃ここにしたたる竜胆花

くぬぎ山ストーヴ焚けばけむり来ぬ