月高く思ふ冬帽まぶかにかぶり
川涸れの蘆暮れなんとして白き
かりうどが鼬をさげてさき行きぬ
床をあげて日向に坐るほかはなき
二月の障子しめきつて何も思ふまい
寒千両猫がとほれば冴ゆるなり
つくし摘み野島の風をさむみつつ
をとめゆゑさくらのつぼみほめゆきぬ
草生の日ひそけきあまり鳥交む
カナリヤを花菜の風にとばせたや
茄子植ゑて電車の風をかぶりたり
雲は白しとじやがたら畑に鍬入るる
はかりこぼす丹精の繭の白さはや
浴衣着て逢へばすなはちはなやぎぬ
茄子もげば雲がひらひら夕焼けて
昼三味にこぼるるものや鳳仙花
団扇絵のよきをえらびて風おくる
椎わくらば掃けばこぼるる時をなみ
みだらごと思ふかぼちやの花ばたけ
うみしろきあけくれ秋の風たちぬ
盆すぎの海荒れてをるすすきかな
秋風に魚陣うつると見てゐたり
渡り鳥向き変りたる強雨かな
降るほどに昏くなりゆく鶏頭花
朝空の青きに消ゆる月ならず
紅葉山鳥のこぼしし血も淋し
すめろぎの昔おもへば秋の風
さげて行く竜胆たれにわかためや
枯すすき端山の月の昼のぼる
しぐるるや杉の高枝のぎいと鳴る
枯りんだう泪こらゆる心地よな
わが顔の鴛鴦の水輪と暮れのこる
みをやたち寒病みのあをもらせたまへ
弾をのがれし浅山鵯は声しぼり
反故を焼くけぶりは庭へ出てかすみ
裏山の木の芽かたきにとぢて窓
葱の花しろき日暮れの道長き
猫の尾のびりりと顫ふ春の風
雛まつる水一碗のさむさかな
人去つて冴ゆるほかなき夕ざくら
碧落へ花散る山の登りかな
かすむ日の海をながめに山の鳶
襖絵のくもれば匂ひ来ぬ花菜
蚕飼女や吾におしろいしのばする
柏餅焼いてくらうて繭黄なる
おぼろ夜の竹へとなりの嫁の声
百合さげてこころおくるる麦の秋
貨車のさび草にうつりて薄暑かな
掌にのせて冷たきものや雨蛙
山鶯の声天明り杉伝ふ
刈りのこす山百合折りし気の咎め
見えてゐるほと幼きは温泉にすずし
誰がための白き燈籠ぞ作りゐる
提げてゆく燈籠の灯の顔へ来る
汐焼けの膚のしまりや夜の秋
燈籠の絹すずやかにともりけり
竹がわつさり垂れて残暑の眠り豚
知盛最期と奈落の虫が鳴くなめり
野芝居の杉に霧ふる夜冷えかな
お蚕守りて秋を老いゆく父と母
紫苑高々茜しをるが瞳になつく
又しても百舌うるさしと繭掻女
漕ぎ出でて洲草に放つ火もあれな
鳶栖んで枯るるに早き島の草
秋風やわりごの飯もふなばたに
紫蘇殻をにほはせてゐる焚火かな
宵浅み菊見るひとの女がち
話声雀にとどく夕冬木