和歌と俳句

若山牧水

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木槿咲き 曼珠沙華咲きし 白浪の この海人が村に 秋を越えにけり

しかすがに 静けかりけり 顧みる 曼珠沙華のはな 白木槿花

挨立つ 浜街道の 往くさ来さ この秋は見し 白木槿花

をりをりに 立ちどまりたる わが影の 寒きも目路に 浮び来るなれ

風を忌み 深く篭れど 挨づく あはれ机の 椿の花さヘ

西風立つと きほひ乱れて 相模なる 三崎の沖に 帆ぞ靡きたれ

海風に 梢なびける 砂山の むらだち椿 靡きていま咲く

酒飲めと 冬日はるばる 送られし 鴨の羽色の この深みどり

おほよそに 見し海岸の 芝山の 冬近づくと 黄葉しにけり

浜に続く 茅萱が原の 冬枯に 小松まじらふ わが遊ぶところ

白浜の 風を寒しみ ひそひそと 入れば松原 かぎろひ居たり

軒近き 砂山松の 梢染めて 今朝も晴るるか 冬日さし来る

冬晴の 芝山を越え その蔭に 魚釣ると来れば 落葉散り堰けり

釣竿を 片寄せて聞けば 細渓の 落葉をくぐる 彼の瀬此処の瀬