和歌と俳句

若山牧水

起き出でて 見る軒さきの 枝葉みな 垂れて輝かず けふも曇るなり

おほかたは 曇りつづきし 長月の そのすゑつかたの 今日もまた曇る

さりげなく 起居はすなれ 秋曇る 家に篭れば 悔ゆること多し

秋咲きの くれなゐダリア やうやうに 咲きしと見れば けふも曇れり

秋立ちて はや幾日ならむ なにしかも かの西の風は 吹き立たざらむ

長火鉢の 抽斗あけて かき探す しめりがちなる わが粉薬

軒さきの 木立に見ゆる 朝霧の 動ける見えて けふは晴るるか

軒晴れて 風の冴ゆれば 貧しさも 忘れてうごく わがうからどち

夕雲の 細くたなびき 地にひきて 輝く見れば 秋はさびしき

裏光る ひろ葉ほそき葉 窓の見えて 秋風聞ゆ 西晴れゆけば

やとばかり 驚き見たる 一鉢の 睡蓮の花は 友の呉れしとふ

渓川の 澄めるこころは かたよりて ひそかにものを 避くとこそすれ

おだやかに 妻にものいふ やすらけき こころをわれの 持たぬものかも

下をのみ 見て居るごとき おもひして わが眼うとましき この日頃かな

たけ高く われ越ゆべしと おもひゐし 鶏頭は尺に 足らで花咲けり

きのふけふ 野分吹けども 枝葉のみ 茂り暗みて ダリヤは咲かず

枝葉のみ 黒み茂りて 秋づきし わがダリア畑に 蕾は見ゆる

蜘蛛の巣の しじにからみて 朝な朝な 露ばかりなる わがダリヤ畑

小鉢より 庭にうつせし 糸萩の 伸びいそぎつつ 今は花咲けり

庭せまく 小草茂りつ とりわけて 露しとどなる 糸萩の花