和歌と俳句

若山牧水

しののめの 霧晴れぬ間に 起きいでて 庭に花見ること覚えたり

酒のみの 主人とおもへ 庭の隅に 植ゑられし草は 胡椒青蓼

わが庭の 紫苑ダリヤの 花かげに 夕晴れぬれば うごく風みゆ

小さければ 抜き棄つべしと 思ひゐし 鶏頭はいよよ 色冴えて咲く

秋草は 晴れてこそ見め ながつきの この長雨に 腐れつつ咲きぬ

雨のいろ 土に浸み入り 黒みたる 園のながさめに ダリヤ叢咲けり

なごりなく 吹き荒らされし 暴風雨後の 庭は土さへ 新しく見ゆ

しけあとの 落葉朽葉の 下づみを 伸び出でて咲けり ダリアの花は

大しけに 洗はれて出でし 花畠の 荒土に垂れて ダリヤは咲けり

ながながと 折れたるままに 先青み わづか擡げて コスモス咲けり

朝の月 ひくくかかりて 練馬野の 大根畑に 日は輝けり

うごきなき すがたに見えて 遠峯に 雲こそかかれ 秋のしののめ

黄葉せる 櫟の木かも 刈りあとの 水田の畔に とほく光るは

この朝の わきて寒けく 遠空に ましろに晴るる 富士見えにけり

わが頬の 凍るおぼえて 朝風に 吹かれ急げば 冬畑晴るる

行きずりの 眼にこそうつれ あかときの 櫟のもみぢ すがれ咲く菊