朝の山 日を負ひたれば 渓の音 冴えこもりつつ 霧たちわたる
朝雲の 散りのかすけさ 秋冴えし 遠嶺に寄ると 見れば消えつつ
筏師の 焚きすてていにし うす霜の 川原のけぶり むらさきに立つ
朝晴の とほきに見ゆる 草山の まろきいただき 黄葉せる見ゆ
杉山の 茂みのなかゆ まひ出でて 渓越す鳥の 光る秋の日
啼く声の 鋭どかれども 鈍鳥の 樫鳥とべり 秋の日向に
真砂なす 石も動きて 渓川の 秋の浅き瀬 ながれてやまず
石越ゆる 水のまろみを 眺めつつ こころかなしも 秋の渓間に
朝曇 やがてほのぼの 明けゆくに つらなりわたる 山黄葉かな
たたなはる だんだら山の 雑木山 黄葉しはてて いまは散らむとす
水痩せし 秋の川原の 片すみに しづかにめぐる 水車かな
瀬のなかに あらはれし岩の とびとびに 秋のひなたに 白みたるかな
ほそほそと うねりながるる 真白木の 筏かなしも 秋晴れし渓に
うらら日の ひなたの岩に 片よりて ながるる淵に 魚あそぶ見ゆ
胡桃の樹 枝さしかはし 渓あひの 早瀬のうへに 薄黄葉せり
白き雲 かかりては居れ 四方の峰の 際あざやかに 秋晴れにけり
自転車の 走せぬけ行ける 渓ぞひの 秋の往還 晴れわたりたり
ほそほそと 軒端を越えて 菊の花の 白きが咲けり 瀬のそばの家に
若杉の 白木伐り乾せる 片山の 見のはるけしも 秋のひなたに
円山の 芒の穂なみ 銀のいろに ひかり靡きて ならぶ幾山