冬の日の ひなたに居れば そこ此処と 痒くなる身の 古りにけらずや
藍湛ふ かの沖津辺と ながれあひ 冬の日の雲 ひくくこそ居れ
霜月の 末の寒けど 潮騒の ひかりなびきて うららけきかも
夕日さす 崖の枯草に かき坐り 釣する見れば われも楽しき
ありがたや けふ満つる月と 知らざりし この大き月 海にのぼれり
月いまだ かがやかざれど わだつみに うつらふ見れば 黄金ながせり
断崖の 端に立てれば 月ひとつ われを照らして 海どよもせり
霜月の 満ちぬる月の 沖辺より 昇り来りて この海寒し
うすいろの 大あめつちと 今を見よ ひんがしの海に 月さしのぼる
とほく来て 寝ぬるこの宿 静けくて 夜のふけゆけば 川の音きこゆ
向つ岸 水際につづく 篁の なびき静もる 冬のひなたに
一夜さに 山に雪つみ わが宿の 庭のたかむら 朝雨の降る
わが船に 驚き立てる 鴨の群の まひさだまらず あら浪のうへに
片空に 崩れかかれる 雪雲の なだれのはしは 降りてかあるらし
なだらかに のびきはまれる 富士が嶺の 裾野にも今朝 しら雪の見ゆ
浪の間に 傾き走る わが船の 窓に見えつつ 富士は晴れたり
よりあひて 真すぐに立てる 青竹の 薮のふかみに 鶯の啼く
菅山の 海ちかみかも この朝け ほのかに降りて 雪消えにけり
軒ごとに 梅の花咲き 乾びたる 枯田の里に けふは雪降る
ただ一木 青みて見ゆる 梅のはな さびしくもあるか 梅の林に