いぶせみて 見ればあたりの 低山に 白梅のはな 咲きしづもれり
うちわたす 冬田のくろの 低山の そのしば山の けふも晴れつつ
かぎろひの 上れる原の かたすみに 赤錆びたてり 冬のたかむら
篁も 杉の木立も 赤さびて しづもれる里の 温泉には来し
冬川の 石のあひだの ながれ水 流れ清みて 芹生ひにけり
ひと日見し 山のかすみの つぎつぎて 霞みわたれり 海のむかひに
ここに見る 海のむかひの 駿河路の 低山脈に かすみたなびく
春立つと 沖辺かすめる 湯の町に ひとり篭りて さびしくも居る
梅の花 はつはつ咲ける 海ぎしの 温泉にきたり 幾日経にけむ
とびとびに 岩かあるらし 春の日の とろめる入江 浪動く見ゆ
崎山の 楢の木がくり 芝道に 出であひし海女は 藻の匂せり
また一人 とほくには見ゆ 荒磯の 浪しろき辺に 藻をつめる海女
裳のすその 短かけれども のびやかに のびたる脛は 神のままにして
ひとみには 露をたたへつ 笑む時の 丹の頬のいろは 桃の花にして
浪高み けふは永くは潜らずと 笑みてこたふる 汐垂らしつつ
行く旅の いづかたはあれ くつろぎて こころ休むる 旅とてはなし
はつはつに 梅のはな咲く おのづから 思ふくるしき 世の中のことを
伊豆の国 戸田の港ゆ 船出すと はしなく見たれ 富士の高嶺を
柴山の 入江の崎を うちめぐり 沖に出づれば 富士は真うへに
野のはてに つねに見なれし とほ富士を けふは真うへに 海の上に見つ
崎越すと 船はかたむき ひとごゑも せぬ甲板に 富士を見て居る
冬日さし 海は濃藍に とろみつつ 浪だにたたぬ 船に富士見つ
冬雲の そこひうづまき 上かけて なびけるうへに 富士は晴れたれ
見る見るに かたちをかふる むら雲の うへにぞ晴れし 冬の富士が嶺