和歌と俳句

若山牧水

山みちの 落葉ふみつつ おのづから おもふかなしき 妻子等がこと

目あぐれば 黄葉の山の 三重つづき 四重かさなりて 路は晴れたり

黄葉して 凪ぎひそみたる 低山の 雑木が原を あはれとも見つ

落葉積む 路のひなたの 長ければ ひとりかなしも 身のこと思ふ

みちばたの ひなたの落葉 かき敷きて 憩ふとはすれど 心おちゐぬ

さやさやに 遠き瀬かよふ 山そばの けはしき行けば 紅葉散りつつ

夏ならば 鮎もすむてふ 岩渓の 黄葉のかげの 瀬瀬の寒けさ

山鳩の するどく飛びて 樫鳥の のろのろまひて 秋の渓晴る

早き瀬の 此処に曲りて 幅ひろき 秋の川原に 子等あそぶ見ゆ

ひちひちと 音の聞えて うち上り 秋のひなたに 光る早き瀬

木がくれに やがてなりゆく 細渓の みなかみの山は 秋霞せり

この渓よ ゆるく曲ると とく折ると 水速けれや 紅葉みてゆくに

浅き瀬の 底の石つぶ つばらかに 秋日寒けれ 此処の川原に

葛飾の 冬田の原の 榛の木の くきやかに晴れて 日の寒きかも

榛の枝 みだれなびかひ 葛飾は こがらしすなり 真日照るなかに

停車場の 裏の冬田に 風わたり 田尻にひくき 昼の月見ゆ

なだらかに 海へくだれる 片岡の 麦生あをみて 木枯の吹く

片空に 朱をかき流し こがらしの 上総だひらは 夕焼けにけり

上総野の 冬田行きつつ おほけなく 富士のとほ嶺を 見出でつるかも

かがやきて 月照る海ぞ 見えきたる 冬の夜冴えし 汽車の小窓に

松原の 蔭の小川に しらじらと 照りたる冬の 月夜なるかも