和歌と俳句

コスモス

晶子
いつしかとこすもす咲きぬ草の中細雨の前のともし灯のごと

晶子
去年ありし赤児の笑にたぐへつるこすもすの花匂ふ秋きぬ

利玄
疲れたる光の中にコスモスのあらはに咲ける午後頭痛する

利玄
コスモスの花群がりてはつきりと光をはじくつめたき日ぐれ

利玄
日光に近き停車場杉の木の暗きが前にコスモス光る

茂吉
コスモスの闇にゆらげばわが少女天の戸に残る光を見つつ

コスモスの花に蚊帳乾す田家かな 鬼城

日曜の空とコスモスと晴れにけり 万太郎

晶子
秋風にこすもすの立つ悲しけれ危き中のよろこびに似て

鉄柵の中コスモス咲きみちて揺る 山頭火

晶子
こすもすよ強く立てよと云ひに行く女の子かな秋雨の中

牧水
ながながと折れたるままに先青みわづか擡げてコスモス咲けり

憲吉
端居よりとほく見ゆる倉間のコスモスの搖れ秋づきにけり

コスモスの紅のみ咲いて嬉しけれ 石鼎

埋立地早コスモスの家を見し 虚子

コスモス見るや鼻に日当る顔向けて 石鼎

晶子
大空の青きとばりによりそひて人を思へるこすもすの花

コスモスくらし雲の中ゆく月の暈 久女

コスモスに風ある日かな咲き殖ゆる 久女

晶子
山の木の中に植ゑられ山羊めきぬ都築の岡のこすもすの花

コスモスの相搏つ影や壁の午後 泊雲

コスモスの花のしげきに月日あり 石鼎

コスモスや二戸相倚れる柿葺 青畝

コスモスを一輪挿に稲の窓 石鼎

ぬかご枯れてコスモス咲ける畑かな 石鼎

コスモスや蝶も吹かれて風つよし 泊雲

コスモスの影ばかり見え月明し 花蓑

晴天やコスモスの影捲きちらし 花蓑

一二輪コスモス刎ねて日和風 花蓑

コスモスや風に撓みてもれもなし 爽雨

コスモスの淋しさ誘ふ糸葉なる 石鼎

コスモスや光れば光る水の影 花蓑

コスモスや籬溢れに咲き闌くる 草城

降られゐて牛おとなしや秋桜 草城

コスモスや夜目にもしるき白ばかり 草城

引き据うる古び盥や秋ざくら 草城