和歌と俳句

秋の海

秋海や湿気の深き窓の下 北枝

夕暮はいつもあれども秋の海 涼菟

秋の海名もなき嶋のあらはるる 子規

ながながと安房の岬や秋の海 子規

夕陽に馬洗ひけり秋の海 子規

門を出て十歩に秋の海広し 子規

那古寺の椽の下より秋の海 子規

釣鐘をすかして見るや秋の海 漱石

牧水
秋の海 阿蘇の火見ゆと 旅人は 帆かげにつどふ 浪死せる夜を

秋海のみどりを吐ける鳴戸かな 蛇笏

茄子畑に妻が見る帆や秋の海 蛇笏

秋海のなぎさづたひに巨帆かな 蛇笏

淋しさの極り青し秋の海 喜舟

白秋
遠丘の 黒樫の木の 幹なかば 銀ながしたる 秋の海見ゆ

白秋
遠丘の 向うに光る 秋の海 そきくつきり 人鍬をうつ

白秋
二方に 光りかがやく 秋の海 そのニ方に 白帆ゆく見ゆ

見るうちに高まさる浪や秋の海 石鼎

打揚し巨木に人や秋の海 泊雲

大帆より小帆二つ生みぬ秋の海 泊雲

秋の海丘退きてまた見ゆる 風生

われもきてよりかかる窓や秋の海 石鼎

艪かつげば艪のかげ壁に秋の海 石鼎

大空の日を忘れゐつ秋の海 石鼎

西吹いて躍れる雲や秋の海 石鼎

いかつりの船よそほひや秋の海 石鼎

秋の海熾んにのびて浜の草 石鼎

つかのまの絃歌ひびきて秋の海 蛇笏

秋海にたつきの舟の曇りけり 蛇笏

秋の海つとひらけたる砂丘かな 立子

秋の海丘退きてまた見ゆる 風生

町裏に汽車が着きゐて秋の海 汀女

彼の船の煙いま濃し秋の海 たかし

秋の海蒼を川にも遡らしめ 誓子

箒木に月の家つづく秋の海 普羅

白々と海女が潜れる秋の海 普羅

秋海を見に行く電車白蝶追ふ 綾子

白き墓その間ゆき秋の海 綾子

秋の海見て来し下駄を脱ぎちらし 

秋の海木の間に見えてはろかなり 

秋の海深きところを覗き過ぐ 誓子