和歌と俳句

中村汀女

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鳥立ちしあとも鳴子の鳴りやまず

種茄子にかやつり草の映るなり

ものいへば南瓜ころがして人みしり

灯の入りし公衆電話秋の暮

秋雨の町に家鴨を追い出せる

一列に秋雨家鴨路地に入る

バス待てば犬嗅ぎ寄りぬ秋の風

秋風や汝が手荷物の釧路行

町裏に汽車が着きゐて秋の海

あはれ子の夜寒の床の引けば寄る

みちのくの夜寒けはしく来し灯かな

よびとめて白き夜霧に別辭かな

切通しの色づく漁港かな

の荷の下の布子を取り出だす

黄菊先づ車窓馳すなり町近し

窓の灯にを映して寝まり居り

梨なかば奪られたる子も機嫌よく

山水のどこも泌み出る赤のまま

掛稲の街道白く遠を指し

傘が来て溝蕎麦の雨ふとくなる

秋雨の汽車に乗らんとして濡るる

發ちしまま朝顔いまだ新しく

やはや子の顔の見えわかず

朝顔を結ひしこよりの濡れて咲く