新古今集 匡房
秋くればあさけの風の手をさむみ山田の引板を任せてぞきく
ちかづきの鳴子鳴らして通りけり 蕪村
あし早き雲の蹴て行く鳴子かな 几董
野ねずみの迯るも見ゆる鳴子哉 召波
どこで引くとしらで廣がる鳴子かな 子規
一葉
心なき門田のなるこ吹く風におどろかさるる鳥もありけり
何げなく引けど鳴子のすさまじき 子規
旅人を追かけてひく鳴子哉 子規
稲妻にひとゆりゆれる鳴子かな 子規
ひとりゆれひとり驚く鳴子かな 子規
一つ引けば田の面の鳴子なるを見よ 虚子
推せば鳴る草のとぼその鳴子かな 虚子
日もすがら田の面の鳴子鳴る日かな 虚子
芋煮えて天地静に鳴子かな 碧梧桐
馬遠く鳥高き野の鳴子かな 碧梧桐
鳴子引きて尚ほうと追ふ鴉かな 虚子
引く人もなくて山田の鳴子かな 虚子
里犬を追出してゐる鳴子かな 鬼城
草山を一つ隔てゝ鳴子かな 石鼎
稲の上に鳴子の影や月の下 石鼎
朝まだき一つ鳴りたる鳴子かな 石鼎
夜は日の出昼は月の出の鳴子かな 石鼎
鳴子縄はただ薄闇に風雨かな 蛇笏
文殊會の僧月にひく鳴子かな 蛇笏
金粉の散ると見えたる鳴子かな 喜舟
鳴子板逆立ちつつや鳴るはげし 爽雨
やまびこの消えてさびしき鳴子かな 青畝
生き死にのほかなる鳴子一二聲 蛇笏
とり出でゝ年々古き鳴子縄 石鼎
ひそかにも来ゐし雀や鳴子縄 石鼎
鳴子縄切れたる遠きあたりかな 月二郎
鳴子引くや雨のあとゝて重たかり 石鼎
地をすりて結びだらけの鳴子縄 石鼎
鶺鴒のたちてさびしき鳴子かな 秋櫻子
ま昼ふかうして鳴子鳴る 山頭火
誰が引くやしきりに鳴つて遠鳴子 淡路女
あきつとぶひかり薄れつ夕鳴子 麦南
からからと鳴子の音も空に消え 虚子
鳥立ちしあとも鳴子の鳴りやまず 汀女
ここもとで引けばかしこで鳴子かな 虚子
鳴子鳴り堂にあまれる大耳佛 秋櫻子
霧の奥山見え来るや鳥威し 風生
鳥おどし響くや西へ筑後川 橙黄子
鈴生りの大樹の柿や鳥威し 秋櫻子
山風にもまるる影や鳥おどし 麦南
鳥おどし動いてゐるや谷戸淋し たかし
弓少し張りうぎてあり鳥威し 虚子
目の前にひらひらするは鳥威し 虚子
地声にて聖母農園鳥威す 静塔
母恋し赤き小切の鳥威 不死男
鳥威す金銀金は火に見ゆる 誓子