和歌と俳句

樋口一葉

おぼろなる月いつのまにくもりけん雨になりたる春の夜半かな

春がすみたちさりかねて見つるかなこやふる里のあとと思へば

折しもあれ卯の花くたしふることを袖にかけても忍ぶ今日かな

みちのくの無き名取川くるしきは人にきせたるぬれ衣にして

たらちねの親心してめづるかなわが袖垣の撫子の花

はちす葉のうへ安からぬ世なりけり露の白玉かつくだけつゝ

夏河のあしかり小舟すぎぬらしうかべる月のかげのうごける

よもぎふの庭のあき萩咲にけりまた世の人にとはれもぞする

中々にあらくは吹かぬ風ゆゑにみだれてなびく花薄かな

吹まよふ野風をあらみかるかやのみだれ心は知る人ぞしる

初瀬山ひはらの奥のかねの音のつきぬ願も誰ならなくに

吹く風のあとなき空をながむれば入相のかねのこゑぞさびしき

うらやまし鳥部の山の夕烟きえにしのちは何事かある

何事にかけて契らん松竹も後の世まではたのまれなくに

秋もややはだ寒くなる夕風にあはれ初雁なき渡るなり

立ちまよふ野辺の朝霧おのづから道さまたげはある世なりけり

見るかぎり稲葉なみよる小山田のさとの秋こそのどけかりけれ

心なき門田のなるこ吹く風におどろかさるる鳥もありけり

ひたすらに聞かずばきかず吹く風のたよりばかりは苦しかりけり

くりかへし読むとはすれど燈火のあきらかならぬふみの上かな

散たまるふもとの落葉わけて思ふ埋もれぬべき雪の山里

かり衣すそ野のはらの冬がれにあそびし蝶の行方をぞおもふ

雪をまつわが岡のべの一つ松あはれ友なき宿ぞ寂しき

いたづらにかよふとすれど水ぐきのあとはかなくやならんとすらむ