かつらぎや久米路の橋のはしたにて絶んものとは思はざりしを
人はよしくみもくまずも山の井のすめる心ぞ羨めれぬる
ふりはへて冬は来にけりよの中にかずまへられぬ宿ぞともなく
神無月おく霜白き朝庭にかぜも吹きあへず散る紅葉かな
霜さゆる野河のきしのかれ荻にちからをそへて吹くあらしかな
なにとなきかれ色寒くみゆるかなあらし吹きしく小野の浅ぢふ
かれてたつただ一もともさびしきは嵐の庭の尾花なりけり
千鳥なくかもの河風みにしみて糺すの森に更けし月かな
かれわたる庭のあさぢふ照る月の色なきいろぞ寒けかりける
更けぬるか寒き河せの月かげにうらがなしくもなく千鳥かな
消残るみちのともし火暁の雪に照れるもさびしかりけり
くれて行く年の道さへみゆるかとおもふばかりにてる月夜かな
よしといひあしといふともから衣たゞ身一つをつゝむばかりぞ
のどかなる空の色かな年たちてゆるぶは人のこころのみかは
あやしくもあらたまりたる心かな昨日もとりし筆にやあらぬ
我が園のものとおもへば初わかなはつかなれども嬉しかりけり
鶯のけさおとづるゝ声聞てはじめて春の心地こそすれ
うちなびく河そひ柳あさ東風の吹きのまにまに春や知るらむ
春雨のふる葉大かたくちてけり今日よりもえむ垣の若草
のどかなるけさの雨にやはるの野の草のみどりも色まさるらむ
山ばとの雨よぶ声にさそはれて庭に折々散る椿かな
さくら花おそしと待ちし世の人を驚かすまで咲きし今日かな
をしまれて散るよしもがな山桜よしや盛は長からずとも
おもしろき朧月夜になりにけりひとり残りし花の下かげ
春雨は晴れて暮れゆく河そひの柳がくれにかすむ月かな