おりたちし和歌の浦わのあだ波に人の藻屑とならんとや見し
分けいればまづなげきこそこられけれしをりも知らぬ文の林に
なとり川瀬々のうもれ木それすらも世にあらはるゝ時はありけり
落ちたぎち岩にくだけて谷川のそこには塵もとゞめざりけり
春浅き園の若草若ければおふしもたてよつみはゆるして
うかれてはたぬも鼓やうち添へむ初午まつるもりのみやしろ
いざさらばなき名とり川このままにぬれ衣にしてやみぬべきかは
鶯の声する春になりにけりうき世の花は知らぬいほりも
見わたしの林はかすむ春雨に野みちしめりて梅が香ぞする
さらばとて立ち出がたし月の瀬のうめのたよりは告げて来つれど
青柳のなびくを見れば谷川の水のも春はうかびそめけり
おくれたる友の為にとしをりして谷間の蕨折り残しけり
すみだ河いく朝露にぬれつらん桜の色に袖やそまると
朝露のかかるありきもならひつれ岡辺の桜はなゆゑにこそ
風ふかば今も散るべき身を知らで花よしばしとものいそぎする
さくら花さそふ嵐の音きけばわが心さへみだれぬるかな
うもれ井のうもれて過す春の日をおもしろげにも鳴く蛙かな
春風は吹くとなけれど菜の花の上なる蝶を立たせつるかな
咲く花に人はくるひて見かへらぬ山した庵の春のよの月
小しば垣わが庵ながらおもしろし花散りかかるはるのよの月
かへるさは朧月夜のかげもありまとゐのむしろよしふけぬとも
おもふことすこし洩らさん友もがなうかれてみたき朧月夜に
何事のおもひありやと問ふほどの友得まほしき春のよの月