黒揚羽壕の冥界出で来る
蛍火が照らす細かき羽使ひ
蛍火が星の代りに天降り来る
吾を離さず山寺の女郎蜘蛛
蝸牛殻新しく死新し
緑蔭に地蔵児を抱く吾も入る
合歓の花紅きは媛の国なるよ
今年竹みな頭を垂れて伏し拝む
蓮の葉が青田に立てり大師の国
早苗挿す一本づつに願籠め
草茂る古城は隆起珊瑚礁
露座仏の膝も青苔青世界
盛綱の駒踏みし海刈田なる
葉月潮伊雑の宮をさしてゆく
鳥威す金銀金は火に見ゆる
送り火の大を丹波の国へ向け
大文字が生身の魂の吾へ向く
緑金の虫火の山の湯に死せり
五輪塔稲田に地水火風空
頭を垂るる前に芒は穂を立たす
噴火山芒は紅き穂を挙る
火の山の爛れに雪の斑なる
箱根山スケート場の冷地蔵
金色の御堂に芭蕉忌を修す