鳳輩の峰越しを思ふ明治節
子等いまも御井をいただく明治節
過ぎましし海道に立つ明治節
明治節行幸の鼓笛聞ゆかに
思い出づ歴史の中に雪降れり
山川に泳ぎてのちの軍神
軍神と伊勢の青嶺といや継ぎに
冬寂びてなほ青谷ぞ荒御魂
書を移していまは落葉す林崎
冬川の合へば青淵畏きかも
冬磧河合に称辞を宣る
楠の実を地にして神の樹なりけり
楠の実のその樹のもとに息をととのふ
青淵の冬動けるに漱ぐ
昼中の白き刻のみ春の蝉
黒土にまぎるるばかり菫濃し
紫蘇の汁なほ点々と陰に入る
紅あかく海のほとりに梅を干す
燕の尾さきさばける下通る
その芍薬欲しと搬車につきゆけり
日々わたる踏切も暑をきざしけり
白浪に向きて書を読む夏は佳し
干梅の上来る酸の風絶えず
紅き紙鳶炎天深く揚げたり
この大き踏切夜涼殺到す
冷し馬海に鼻筋白く立つ
冷し馬たてがみ波をやりすごし
冷し馬上りて終にかへりみず
鬼灯の一枝累々買ひもどる
鬼灯を畳に直に枝ながら
鬼灯を活けて白浪増え来る
鬼灯のなほ朱からむことを期す
鬼灯のあからむ頃もひと泳ぐ
蟋蟀の無明に海のいなびかり
燈をとりに来し蛾の闇は雨降れり
甲虫のやはらかき翅なほ余る
月下にて干潟なること明らかなり
鶏頭の厚き花瓣に日がさせる
亡き父のセルをわが着て日々の露
洋傘つきて帰る家路の海しぐれ
球なくて電柱立てり海しぐれ
寒の星みな立つ天の北の壁
暮雪にて天に雪降る意なし
雪の浜照りつつ午を過ぎにけり
出洲の雪水激ちつつなほのこる
雪ゆふべ手掴み洗ふ馬の蹄
虎落笛叫びて海に出で去れり
蜜柑剥いて棄てたるここが陸の果
蜑が焚く煙は長き春の暮
かすかなる実の青桃となりゆくも
蟻を掌の裏や表に遊ばしむ
霜柱枕辺ちかく立ちて覚む
百足虫出づ海荒るる夜に堪へがたく
提げゆきし百合の香ここにとどまれる
寄る浪は磯にとどまるちちろ虫
水清き流れに寄れば鵙のこゑ