電燈の煤黒寒の墨造り
生きものの酒ぶくぶくと寒造り
農夫独り何に手を拍つ春の昼
巌動かず渦潮の自在境
渦潮の底を思へば悲しさ満つ
渦潮を両国の岬立ちて見る
渦潮の衰ふるまで鵜が岩に
強東風に鳴門わが髪飛ばばとべ
湧きかへる春潮船と淡路の隙
情強きテープを春の潮に持つ
春潮の迅き船廊鮮魚の籠
春潮迅し後甲板へ降り行きたり
暮遅し潮いくばくあるか知らず
雄の川の雪解の上に怺へ立つ
架橋行く眼にもとまらぬ雪解川
合流する雪解の両つ川渡る
合ふまでは違ふ流速雪解川
雪解川合ふ間際まで千曲やさし
雪解合ひまた幾曲の千曲川
犀川の雪解の激ち渡りかへす
ただ湖を見るわかさぎの禁漁時
汁熱き諏訪の蜆の白肉食ふ
吾老いず蝶の角にて軽打され
合流為し終る新燕喜びとぶ
さくら満ち一片をだに放下せず
石の椅子基督教の桜の園
遅れ咲きいまの落花に加はらず
藤懸る電気起して無臭の川
芽落葉松靴の厚泥削ぎ落す
低咲きの岬の薊大海原
苗代にいのち噴かざる籾が見ゆ