和歌と俳句

山口誓子

方位

燈台の光源夏のゆふ迫る

田植衆憩ひて飲みも食ひもせず

手に挟み牡丹の面をまざと見る

釣る直立海に上下して

太陽の出でて没るまで青岬

鵜の川の迅さよ時の流れより

鵜篝は靡きてすすむ幡なして

鵜篝の早瀬を過ぐる大炎上

疲れ鵜が吾ゐる舟にみな上る

ゆるやかな千曲の側の葭雀

豹檻に飼はれて蟻を舐れるよ

新緑や柔腹つけて豹匐ふ

授乳する同じ緑蔭豹の檻

電車迅く涼しや顔のはためきて

二百万納骨在りて嶺青む

レールよりレール岐れて青峡へ

旧銅山いまは湖辺の青山にて

万緑の中放棄放棄林

曝涼にけふは昇殿地を見下す

秋晴に銅像拳握りしめ

霧が凝る山行の吾が羅紗服地

頂上のたしかな平霧の海

冬山にピッケル突きて抜きしあと

岩群の焚火岩擲げ込みて消す

寒雲擦過してゆく吾が頭上

頭上過ぎ去りし寒雲高さつづけ

冬山を石の落ちゆく音落ちゆく音