万緑の中や吾子の歯生え初むる 草田男
萬緑を顧みるべし山毛欅峠 波郷
万緑の中さやさやと楓あり 青邨
子なき吾をめぐり万緑しづかなり 信子
萬緑のまつしぐらなり尼の肘 波郷
万緑やわが掌に釘の痕もなし 誓子
万緑のわくがごとしや一犬吠ゆ 楸邨
万緑やおどろきやすき仔鹿ゐて 多佳子
何うつさむとするや碧眼万緑に 多佳子
万緑の万物の中大仏 虚子
万緑や鏡の如く鷹舞へり 朱鳥
萬緑は過ぎ来し方も押しつつむ 波郷
万緑の更けて茂吉と夢に走り 静塔
万緑やわが恋川をへめぐれる 源義
轢音のあと万緑のまろび来る 源義
万緑や連山朝の日をかへす 源義
善きことのみ告げられ万緑を訪はるる身 節子
甍の濡れ一条黒し万緑下 静塔
万緑や石橋に馬乗り鎮むる 多佳子
トンネルに眼つむる伊賀は万緑にて 多佳子
鑰はづし入る万緑の一つの扉 多佳子
万緑やわが額にある鉄格子 多佳子
万緑下浄き歯並を見せて閉づ 多佳子
万緑や霧笛どの窓からも入る 多佳子
万緑や神々パレ・デ・ナシオンに 草城
万緑の中放棄放棄林 誓子
萬緑や臥すものもなく病家族 波郷
万緑に薬石板を打ち減らす 誓子
万緑の上のゴンドラ昇天せよ 三鬼
白毫は白万緑を凝らすとも 誓子
万緑や山中に見る立峠 林火
歩危の名の二渓万緑鬩ぎ合ふ 悌二郎
万緑を深くぞゑぐる谷と谷 青畝
万緑に吊橋動を経ては静 誓子
萬緑や山下るごと階下り 波郷
万緑の旅のやうやく身に温泉の香 爽雨
万緑の湖畔はなべて幹倒れ 爽雨
万緑の隠さふ草鞋越えの道 静塔
万緑にしてなかんづく桂樹下 爽雨