和歌と俳句

石田波郷

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蠅打つて熱出す兵となりしはや

石竹やおん母小さくなりにけり

六月やかぜのまにまに市の音

合歓いまはねむり合はすや熱の中

合歓の月こぼれて胸の冷えにけり

夕蝉や胸をめぐりて骨の数

棗より合歓あはれなり大雷雨

落ちて火柱みせよ胸の上

菖蒲湯の巨いなる父に抱かれよ

郭公やわづかに書見ゆるされて

夕つばめ集まり和ぎぬアカシア林

夜の雷しばらく銃を措ける身ぞ

苦しけふ陥つるなり伯林は

道の上に菖蒲拾ふを見られけり

道すがら拾ひし菖蒲葺きにけり

坐りふさげ居りし卯の花腐しかな

金雀枝や基督に抱かると思へ

道の上に跼む他なき行 々子

香水の香を焼跡にのこしけり

荒筵沢瀉細く活けて住む

六月の女坐れる荒筵

まどか妻子は切に粥をふく

日々名曲南瓜ばかりを食はさるる

藤散るや三鬼がわたす米袋

の道牛飼人もいくさ経て

舷梯や母こそかなし夜の秋

尼の香の一筋暑し京都

萬緑のまつしぐらなり尼の肘

楸邨のありや祭の中を跼み行く

手を突けば数限りなき蟻地獄

玉蟲を拾はず過ぎて何恃まむ

西日中電車のどこか掴みて居り

夏河を電車はためき越ゆるなり

隠すなし藜諸共水浴び立つ

月見草百姓泣きしを思ひ出づ

朝焼の墓の真中の道掃きをり

朝焼や貨車突放す墓の上