和歌と俳句

石田波郷

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汗ばみて餘命を量りゐたらずや

乙女獲し如きかも薔薇を挿して臥す

栗の花病者も手足亂しけり

蟻の穴憂苦ある者跼み合ふ

遠白き馬鈴薯の花を躍らせ咲く

郭公や教子うかべ教師病む

汗の頸投げて睡れり我も亦

病棟の西日陰こゝを出でゆけず

闇黒より胡頽子一枝を折り来たり

均斉に桜桃並ぶ心安からず

の列離れて帰るほかはなし

梅雨の花病みて怠る謂れなし

喉責めて梅雨の深夜も痰を吐く

梅雨月夜青き腕を折りぬ伸べぬ

人の子や梅雨の夜月の射せば寝ず

梅雨仄か命死ぬ歌頬を熱す

梅雨の樹々かのもこのもに風は居り

梅雨の朱き蛇目傘に妻が隠れ来ぬ

梅雨の夜の雨音よ胸のラッセルよ

暗黒にそそげる梅雨は子をへだつ

梅雨の園猫あをじろくあゆめるも

夜も其處に立ちをり梅雨の一喬松

痩臀を抱きて跼めり梅雨滂沱

病者睡て足裏くろく梅雨晴間

吾子の絵の貨車の下なる梅雨の墓

梅雨日の出平安と思へどねむられず

梅雨雲に触れ飛ぶ鳥は遠飛ぶや

灯るごと梅雨の郭公鳴き出だす

静臥の胸見て来し動悸せり

兜蟲道標のもとにひとり死す

炎天や友亡きのちも憂苦満つ

去りぬ胸をしづかに濡らし拭く

向日葵や咲く前に葉の影し合ひ

悉く遠し一油蝉鳴きやめば

業苦呼起す未明の風鈴

わが斑猫妻と別れてかへす辺に

森出づる西日の道をおそれ行く

驟雨を伴れ来し病まざる草田男その夫人

晩夏光ベッドの端に身を起こす

妻病臥子を連れのぞく蟻地獄

病家族二つの蚊帳の高低に

桜桃を洗ふ手白く病めりけり

病み臥して崖との間の夏の蝶

孑孑の水石階にくつがへす

蝶群がり甘藍畑きしりをり

濃き低きを冠りぬ幾工場

虹消えて土管山なす辺に居たり

虹見し子の顔虹の跡もなし

煤煙急ぎ雲はしづかに朝焼けぬ

虹は消えぬ無能懶惰の一病者